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「でも弘光さん、可能性いっぱい持ってる人ですよ」
「持ってるかもしれないが、人に頼らないと生きていけない子なんだよ、あの子は」
「でもあれね、ひな乃さんがいるなら大丈夫よ。あ、お金の心配はしなくていいからね。あの子の面倒大変だとは思うけど、末永くよろしくね」
人の良さそうな笑みを浮かべながら背中をポンと叩いた奥様。
脳裏にはお見合いの場で家族は僕を追い出したいと言った弘さんの顔が浮かぶ。
私はこの時、謎の悔しさを覚えていた。
これはどういう気持ちだろう。
私も、一ノ瀬一家のお金に頼っている一人だと思い出したから?
そのつもりで婚姻届けに判を押したし、自分の役目が弘さんのお世話をする家政婦のような嫁ってこともわかってる。
うまいこと手の平で転がされたというよりは、知ってて自ら転がった。
私は金の亡者だからと開き直ってもいた。
なのに、この時は、なぜか悔しかった。
何が悔しかったというと、それがよくわからない。
お金さえ渡せばいいんだろ、と言われたような気がしたことなのか。
弘さんを何もできない人と言われたことか。
弘さんを擁護できなかったことなのか。
自分の気持ちすらよくわからなくなって、モヤモヤした気持ちを抱えながら、それでも北京ダックを胃に詰めれるだけ詰めていた。
そんな、一ノ瀬家での夕食だった。
手土産はしっかり頂いた。
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