お見合い

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 足が痺れ始めてきた時、「お待たせしました」と凛とした声が聞こえた。  途端に胸が鳴る。見合いの相手で間違いない、と生唾を飲み込み振り向くと、縁側に立ってこちらを見ていたのは、父に見せてもらったあの写真の人だった。  想像していたよりは背が高く、写真よりイケメン。  仕立ての良いスーツを着こなしている。  私はきっと前世で徳を積みまくったに違いないと思う程、お見合い相手は素敵な人だった。  ところがだ、顔ばかりに集中していたため気づくのが遅くなったが、彼は両手に縄を持っていた。 「そこで止まるなって」と彼が縄を引っ張ると襖の影から袴姿の大きい男が飛び出してきた。腕ごと縄でぐるぐるに巻かれていたため、体勢を崩した男はそのまま畳の上にダイブする。  大きい男が倒れこむと、ドスンッと鈍い音が響き床が揺れ、緑茶が湯呑から零れた。  あまりの衝撃に私と父は瞠目するが、社長とお見合い相手は平然と、いやむしろ面倒だなと思っていそうな表情で男を見下ろしている。 「遅いぞ。どれだけ待ったと思ってるんだ」  社長が詰ると、お見合い相手は袴姿の男を起こしながら「だって暴れるから」と言返す。  その縄はなんだ…?とは思うが、言及するのも戸惑われる。  再び二本の足で立ち上がった男を見ると、失礼ながら冬眠に向けて肥えた熊のようだと思ってしまった。  肩まで伸びたモジャモジャした髪と同じくモジャモジャした髭。袴を着ていてもわかるぽっこりお腹。顔や首、手にまとわる贅肉。物憂げな瞳。不衛生な生活でもしてるのか荒れた肌。  溌溂として健康的な印象のある私のお見合い相手とは、まるで正反対の人だ。
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