2661人が本棚に入れています
本棚に追加
/163ページ
こんなに体を動かしたのは久しぶりだ。
テレビの前には倒れる熊と華奢な兎。
双方とも汗だくで、息が乱れている。
「弘さん、はぁはぁ、動きが激しかった…ね。はぁはぁ」
「だって君が…、はぁはぁ、くたばらない、から」
「たくさん、はぁはぁ、打ち込んでたね」
「なんか、はぁはぁ、痛い…」
「腰が?」
「…腰?違う、肩が」
「ああ、そっちね」
「え、なんで腰」
「あ、いいのいいの。気にしないで」
純粋にポカンとする童貞君に、気づかないうちに卑猥な会話へ進めようとしていた己に気づき、バツが悪いのでペロッと舌を出してコチンと自分の頭を拳骨する。
それでも意味が分からないといった顔をする弘さんだが、私がゆっくり立ち上がると、彼も続いた。
「お腹空いた。今日ご飯なに?」
「カレーだよ。でもあともう一勝負だけしない?」
流石に疲れたから嫌だと言われるかと思ったが、弘さんは「いいよ」と答えてくれた。
結果は弘さんの勝利。
ボロボロに負かされたが、弘さんの動きがしなやかで完璧だったので、そっちに感動して。
「弘さんすごいっ!」
素直に褒めると、弘さんが笑った。
へへ、と少年のように。
モジャモジャの髭が非常に邪魔ではあるし、肌も荒れているが、その無垢な笑みは可愛くて、一瞬脈拍が乱れた。
私は悟った。
この人本当にポテンシャルある!痩せたらやばいぞ。夫はやばいぞ。原石だぞ!
夫育成改革計画への意欲を改めて高めた瞬間であった。
最初のコメントを投稿しよう!