信号機の青と赤

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 そんな日々を過ごすこと三ヶ月。  季節が夏に変わった頃、弘さんは視認できるほど痩せてきた。  こりゃあ10キロ以上減ってるぞと思うので、そろそろ体重計に乗せるかと考え始めていたある日の夕方。  リビングのソファーに座っておっさん調教ゲームに精を出していると、「あの」と声をかけられた。  目を向けると弘さんが俯きながら「ちょっといい?」と小声で言って歩き出すので、スマホを置いて彼の後ろをついていく。  行先が洗面所だったので、勘の良い私はまさかと思った。  そしてそのまさかの通り、弘さんは自ら体重計に乗り、「痩せた」と数字を見るように促してきたのだ。  我が子が初めて自分の足で立ち上がったのを目の当たりにした母親のような気持になって涙腺が刺激されるが、なんとか気持ちを押しとどめ数値を確認する。 「わぁっ!すごい弘さん!前の時から13キロも減ってる!」  キラキラの両目を向けたが、弘さんは俯いて静かに体重計を降りた。  そのまま黙って床を見つめているが、私にはわかる。彼は今、二つのおっぱいしか考えていない。  姿勢を伸ばして弘さんの正面に立った。 「弘さん」と声をかけただけでビクつくのだから、童貞君の反応は面白い。 「約束だから揉んでもいいよ」  ややあってから下を向いてた両眼が上へ動き、私の胸の位置で止まった。  今日は仕事もない日で朝から信号機のプリントがされているラフなTシャツを着ている。  面白いことに左胸に青信号、右胸に赤信号がぴったりはまっている。  ふざけて「青と赤を揉むんだよ、黄色はダメだよ」と言うと、ゴッキュンと盛大に唾を飲み込むので、やっぱり童貞君は愉しい。
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