信号機の青と赤

6/6

2661人が本棚に入れています
本棚に追加
/163ページ
 徒歩十分の薬局で弘さんの肌に合いそうなメンズ用の洗顔料やスキンケアグッズをカゴに入れ、ついでに生活雑貨も購入した。  パンパンになったマイバックは少々重いが、無理というほどではなかった。  しかし、やはり新婚ホヤホヤな新妻としては『ハニー、僕が持つよ』と気遣ってくれる夫の優しさに触れてみたいものよ。  だが無情にも、弘さんは一人でさっさと行ってしまう。  見た目改革が終わったら性格改革もせねばならないなぁ。  すると、左へ曲がるべき角を、先を行く弘さんは右へ曲がった。 「どこ行くの?こっちだよ?」  私の呼び止めも聞かずどんどん歩いて行ってしまう。  散歩でもしたくなったのかな。  確かに今日はあまり暑くないし、風も気持ちいいし、夕日の色に染まった街中をゆったり歩くのもいいよねぇな気分がする。  だが夫よ、妻は重い荷物を抱えてるぞ。そこ重要だぞ!気づけ!普通の奥さんなら激怒するぞ!  弘さんを放っといて家に帰ればよかったのに、私はそのままその背中をついていく。  やがて、彼の歩調が遅くなった。  顔はちょうど横にある店内へ向けられている。    視線を追うとそれは天然石などを販売している小さなお店屋さんだった。いろんな石やパワーストーンのブレスレットなどが並べられているが、人の姿は見えない。  お店の名前はカタカナでエメラジョジョーンというらしい。  そのお店を通り過ぎた瞬間、弘さんの歩調は戻った。  明らかに中を気にする様子だったので真相を訊きたくなったが、急に走り出すので訊くチャンスを逃したし、遠回りして帰宅するころにはすっかり忘れていた。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2661人が本棚に入れています
本棚に追加