お誕生日

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 私が嫁に行ってから、やはり虚しさや寂しさを覚えてしまった父は、ある日思い立ったという。  それは社会人になって諦めていた漫画家になる夢にもう一度挑戦しよう、というもの。  会社の同僚に「俺、漫画をつくろうと思うんだよ」と意気込みを告げたところ、なんと同じ志を持つものが四名、一緒にやりませんかと名乗り上げてきたという。  一人は新社会人の若い子で、残りはベテラン中年平社員。  じゃあみんなで描くぞ!と原稿用紙を買いに行こうとしたところで新入社員が待ったをかけた。 「時代はとっくにデジタルっすよ」  彼は中年平社員に液晶タブレットという未来的道具の存在を教示した。  父は老後の為にと貯めていた娘からの仕送りを迷わず購入資金にした。 「週に二回、その漫画同好会のメンバーが家に来てね、みんなでご飯を食べながらお話を考えて、描いたりしてるんだよ」 「そうだったの!?」 「ああ。楽しいんだよこれが。成功するしない関係なく、仲間と夢を追うって、青春時代が戻ってきたような気分でね。年甲斐もなく少年とドラゴンが冒険に出る漫画をみんなで描いてるんだよ」  父がほんの少し若返ったように思えた。  その新社会人にデジタル器具のあれこれを教えてもらいながら、四人のサラリーマンが楽しく談笑でもしながら作品を作っている様子が目に浮かんでくる。  なんだか微笑ましい。  実家に帰るといつも笑って私を出迎える父が、実は一人寂しく孤独を味わっているんじゃないかと常に不安だったけど、その話を聞けて私は心から安堵し、そして父の仲間になってくれた漫画同好会のメンバーにも感謝したい気持ちが溢れた。
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