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いくつかのリボンや紙がモジャモジャ頭についちゃってる弘さんは、瞬きを繰り返したまま呆然としている。驚きすぎて言葉を失っているのかな。
え~っ、覚えてたの~っ、嬉しい!というような反応を期待してたが、弘さんは私がダイニングテーブルに誘って座らせても、ハッピーバースデーの歌を歌いながらムースケーキをテーブルに置いても、うんともすんとも言わない。
ただ、目だけは私をずっと追いかけていた。
こんなに凝視されたの初めてかもしれない。
ケーキの上には円状に並べたピンクとベージュカラーのマカロン。中央にはHappy Birthday Hiromitsu-san!と書いた板チョコレート。その前に31の形をしたろうそくが立ち、ゆらゆらと小さな火が踊っている。
「はい、じゃあふ~ってして」
渋ってはいたが、何秒かの後、弘さんは唇を窄め火を吹き消した。
私はその尖った唇をじぃっと見つめていた。
やっぱええ唇やわぁと魅入っていたわけなのだが、弘さんが不意に目を上げるので視線が絡む。
不覚にも口をだらしなく開けていた私は慌てて足元に隠していたプレゼントを掴み、「はい、これ!」と差し出した。
それにも目立った反応をしないで受け取り、淡々とした所作で開けていく。
しっかりした箱の中から出てきたのは、黒いレザーウォッチ。
ビジネスからカジュアルまで、幅広いシーンで使えそうな割とシンプルなデザインだが、洗練されててなかなかお洒落だと、私個人は思っている。
絶対弘さんにはこれだと一目惚れしたものだ
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