お誕生日

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 時計をじっと見つめていた目がこちらに向けられた。 「ありがとう」  初めて、真っ直ぐ私を見て笑ってくれた。  そして喜んでくれた。  この一連のイベントを迷惑に思われてたらどうしようと、実は少し不安もあったから、この反応が想像以上に嬉しい。  照れからなのか、見つめ合うことが恥ずかしくなって、ケーキに視線を落としながら「ううん。私とお父さんからね」と頬を緩めた。  それから紅茶を用意して、ケーキを切って二人向かい合って食べた。  初めて一緒に何かを食べるので、感動もひとしお。 「ここの生活、もう慣れた?」  もう五ヶ月くらい経っているのでいい加減慣れてるとは思うが、一応妻としては夫の精神状況も知っておきたい。 「まあ、慣れた」 「実家とここの生活、どっちがいい?」 「…実家」 「えっ!なんで?」  弘さんは紅茶を一口喉に流し、静かにカップを置いてから口を切る。 「あっちでは本当の意味で独りだったから」 「ひとり?」 「僕が部屋で何をしてても、部屋の外に出ても、何を買って何を食べても誰も何も言わないし、見て見ぬふりをする。透明人間になれたみたいに、誰も僕に干渉しない。それが楽だった」
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