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弘さんは不意に時計が入っている箱へ手を伸ばし、その質感を確かめるように指でそっと撫でる。
「ここでは君がうるさい。風呂に入れ、歯を磨け、顔を洗え、服を着替えろ。それから、ゲームやろ、ちょっと手伝ってとか。あと今何してるの?今日どんなゲームしたの?とか。干渉がすごい」
そう言われると、ちょっと反省する。
事実上の妻とはいえ、私は家政婦的な役目を担ってる。弘さんのパーソナルスペースに入りすぎてること、自覚できてなかった。
「…嫌だった?」
紅茶の水面へ視線を下げ、押しつけがましかったのかなと思っていると、「ううん」と声が聞こえた。
顔を上げると目が合ったが、弘さんは逃げるように俯く。
「嫌じゃない」
呟いたそれが、弘さんの本音なんだと思った。
干渉されて多少のストレスは覚えたと思うが、嫌だったわけじゃない。
いや、嫌なわけないじゃないか!
そうだろうそうだとも!
だって、私と関わったことで彼は二つの未知の山を(ある人はそれをおっぱいと呼ぶ)冒険することができたのだ。
そして次は生だもの。ここで私が干渉をやめたら、彼は嘆き悲しみ、一生部屋に籠ってしまう。
だから、今まで通りでやっていこう。
私は改めてそう誓うのだった。
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