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事前に個人情報などの詳細をよく聞かなかった自分がいけないとは思うが、それにしても驚いたなぁ。
動揺を隠しきれないまま正面へ再び目をやると、本物のお見合い相手は俯いていた。
いまだに縄で縛られ、醸し出す空気がものすごく暗い。袴もよく見ると皺が寄っているし、雑に着させられた感がある。
もしかして、お見合いが嫌で暴れていたのかな?
縄解いてあげなくていいのかな...。
そんなことを思っている間に、父と弘光さんの両親は話し始めていた。
思うことはいろいろとあるけど、とりあえず今はそちらの話に耳を傾ける。
必死に笑みを携えて訊いていると、弘光さんの情報を少しずつ知り得ていく。
年齢は三つ上の三十歳。仕事は父と同じ会社の常務取締役補佐。趣味はゲーム。好きな食べ物は唐揚げ。口数は少ないが、人一倍優しくて繊細なんだとか。
「小さい時はアリを踏んじゃっただけで丸一日泣いてたんですよ。ごめんねアリさんって」
奥様が語った微笑ましい昔話に笑いが起こったが、弘光さんだけはずっと俯いていた。
今度は父が私の話をする。
一人っ子であること。母は私が四歳の時に事故で亡くなり、それからは男手一つで育てたこと。家事が得意なこと。
自分の話を父がするのは気恥ずかしい気分にされるので居心地の悪さを覚えるが、それ以上に奥様の視線がまあ堪えた。
目が合うたびにニコーッと笑ってくださるのだけど、私はその眼差しに含まれた妙な期待感にプレッシャーを感じていた。
そしてその後、定番の『じゃああとは若い二人で』の時間を設けられてしまった。
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