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「理想を超えすぎてて恐れおののいています。西条さんすごいです!天才です!」
「あはは。ありがとうひな乃ちゃん。やっぱ俺って天才なんだね」
「はいっ!神です!」
「神かぁ。美容界の頂点なんだね」
「はいっ!頂点です!」
「あっははははは」
よいしょする私とご機嫌に笑う西条さんの間で、弘さんはずーっと俯いている。
というか、弘さんは西条さんが玄関から入場してきた時からずっと俯き、貝のように黙っている。いつも以上に背中も丸っこくなってる気がする。
気持ちはわからなくもない。
西条さんの持つキラキラ感は引きこもり暮らしが長い弘さんには眩しすぎるのかもしれない。
きっと慣れていないのだ、こういうカリスマ性を持つ人間に。
最初は弘さんにたくさん話しかけていた西条さんも、反応が返ってこないことと、当たり前のように妻が代わりに答えることから、中盤からは私とだけ話していたのだ。
床に広がる弘さんのもっさりした髪を片付けようと箒と掃除機を取りに行くと、西条さんが弘さんの肩をポンッと叩く。
「弘光君はどう?気に入ってくれた?あ、セットの方法言ってなかったね」
セット方法を説明しようした矢先、弘さんは突然立ち上がり、ペコ、とお辞儀だけして寝室に行ってしまった。
「おーい弘さん」と部屋に飛び込む勢いで駆け出したが、「いいよいいよ」と止められる。
しょうがないので西条さんの正面まで進んで、夫の態度の悪さを詫びた。
西条さんは嫌な顔ひとつせず、私が持っていた箒を掴み取り、セットの手順を説明しながら床に散乱する大量の髪を履き始めた。
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