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奥様が笑顔で襖を閉めてから五分。
会話どころかお互い声も出さない。
ここは受け身の態勢でいるべきではないなと考えを改め、「あのぅ」と声をかけた。
「その縄…、解きましょうか?」
コクリ、と頷くので「じゃあ、失礼しますね」と近づいて背中の結び目を解いていく。
それにしても背中も大きい人だ。縦横前後と私の倍はある。
「なんで縄で縛られたんですか?」
「…逃げようとしたら兄さんに」
「なんで逃げようとしたんですか?」
するすると縄を緩めていると、弘光さんは俯いたまま教えてくれた。
祖母が倒れたと知らされ父の運転で家族とともに急いで向かったが、連れてこられたのはこの旅館。怪しい、と思い逃げようとしたがSPみたいな男に掴まり、無理矢理袴を着せられたという。
そしてその場にいた兄にお前は例のお見合いをするんだと言われ、ふざけんなーっあれは断ったはずだろーっと逃亡を図ろうとしたところでお縄を頂戴されたとか。
SPみたいな男の登場にはビックリして、実の弟を縄で縛り上げた孝康さんの行動にはつい顔を顰める。
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