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「わからないですね。というか抱く話以前に手も繋いだことないので」
「ええっ!?なんだってぇ!?」
「そんなに驚くことですか?」
「驚くに決まっているだろ。だって嫁だよ?嫁いるのに我慢してるんだよ?俺なら一日ももたないよ。いや、俺というより俺のゴールデンスティックがもたないね」
躊躇なく猥褻発言をしたかと思えば自分の股間を見つめ始めるのだから、こ、こいつ変態じゃないか…。
身の危険すら感じたので、ゆっくり西条さんから離れた。
「そうかぁ。弘光君童貞だったかぁ…」
しみじみと呟きながら西条さんは仕事道具を入れた鞄を閉める。
料金を払っていなかったことに気づいて台所に置いていた財布を取りに行くと、西条さんが急に歩き始め、何を思ったのか寝室のドアをパカーンと無断で開け放ち入室してしまった。
弘さんが驚いているに違いない。
どうしようかと少し迷っていたが、寝室の様子を見に行った方がいいように思えて行ってみると、ちょうど西条さんが出てくるところだった。
「どうしたんですか?」
「ううん。帰る前に弘光君に言っておきたいことがあってね」
二コリ、と女をいちころで落とせそうな笑みを浮かべるので、つられて笑ってしまったところで、パソコンの前で椅子に座っている弘さんに気づいた。
唖然とした表情を西条さんに向けているが、私に気づくと慌てたように目を逸らし、体の正面をパソコンへ向けてしまった。
「じゃあ俺帰るね」
「あっ、お金」
玄関で事前に伺っていた料金を現金で支払う。
西条さんは光沢のある黒い革靴を履き、「アディオス」とちょっと古臭い感じで出て行った。
その後弘さんの部屋へ戻り、西条さんに何を言われたのか聞いてみたけど、「何も言われてない。髪型見たかっただけだったみたい」と目を泳がせながら言ったので妻は夫の嘘を簡単に見抜いた。
だがしつこく聞いても教えてくれないので、西条さんが何を言ったのかは結局わからなかった。
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