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解いた縄を部屋の隅に片づけ、再び弘光さんの正面に座った。
「お見合い嫌だったんですね…」
家族に騙されて無理矢理連れてこられたのだ。嫌で嫌でしょうがないに決まっている。
この縁談、白紙になるんだなぁとどこか悟った気持ちになり肩を落とした。
「…お見合いが嫌なわけじゃ、ないです」
「え、そうなんですか」
「自分の生活スタイルが変わりさえしなければ、僕は親に無理矢理結婚させられても一生独身でも何でもいいんです」
「えっと、じゃあなんで逃亡を?」
「…嫌なのは、何度お見合いしても僕を見るとすぐに断るってわかってるからです。それがうんざりなだけです」
何度も断られた経験があったんだ。それは辛いよね。
そりゃあまあ確かに私も彼の登場には最初ギョッとさせられたし、孝康さんの方がいいなぁとか思ってしまったけど、でも断るほどではない。
彼も痩せればそれなりにかっこよくなると思うし、結婚できたらダイエットさせれば問題はない。
それよりも彼はお金持ちなのだ。それが大事。そう、私にとって大事なのは安定的な高収入だ!
「じゃあ、私とのお見合いが嫌だったわけじゃないんですね」
「まあ、はい」
「良かったです」
玉の輿への道は閉ざされていないんだと胸を撫でおろすと、弘光さんは私を一瞥し、すぐに俯いた。
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