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「えっと…。一ヶ月…やったよ」
「筋トレのことだよね。うん、毎日続けられたなんてすごいじゃん。感激しちゃったよ」
人には筋トレをするんだと尻を叩いたくせに、私自身は筋トレを毎日できる持久力と精神はないので、素直に弘さんを尊敬する。
そんな気持ちを正直に伝えると弘さんは俯く。
だがその口の端が僅かに上がっていること、妻はもちろん見逃さない。
「弘さん、おいで」
ポンポンと隣の座面を叩くと、弘さんはゆっくりとした動きで隣に座ってきた。
これから胸を曝すと思うと自分が変態に思えてきて、不思議な緊張と恥ずかしさを覚える。
夫の育成改革の為とはいえここまで身を削る献身的な妻、他にいるだろうか。多分いると思うが、私ええ嫁やなぁと思う。
「じゃあ、一秒ね」
「え!?い、一秒だけ?」
弘さんが絶望的な眼差しを向けてくる。
僕はたった一秒の為だけに一ヶ月もきつい筋トレをしたのか、と後悔してもらっては今後にも影響しかねないので、慌てて「じゃあ三秒!」と言い直す。
「五秒!」
「えっ!だめだよ三秒!」
「じゃあ間を取って四秒!」
こ、この童貞め…。性の先輩に対して交渉できるまで育ってやがる。
育て人としてはその成長ぶりは喜ぶところであるが、少しばかり複雑でもある。
だがここは一先ず、これで手を打とう。
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