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「よんっ」
上ずった声が出てしまった。
静かに裾をおろすと、弘さんも静かに正面を向き直す。
性の先輩としては威厳を保ちながら『どうだった?』くらい聞いてみたいところだが、どういうわけかその余裕がない。
今更ながら、今とんでもないことしたな自分、と恥ずかしくて、妙にきまずい。
横顔を盗み見ると、弘さんも放心したようにどこかをじっと見つめている。
私の生乳を見て何を思ったのだろう。感想が気になるが、やはり聞けない。
沈黙に包まれること、恐らく五分。
このぎこちない空気感に堪えられなくなった私は立ち上がった。
「じゃあ私、スーパーに行ってくるね。買い物しないと」
いつも通りの話し方はできたけど、いつものように弘さんを見ることができなくて、目線を不自然なところへ向けてしまうが、弘さんも私へ顔を上げないのでバレていることはないだろう。
「何かついでに買うものある?」
「ない」
「そっか。じゃあ、行ってくるね」
コク、と頷いた気配を感じると、私はスマホをポケットに入れ、台所の引き出しからマイバッグを複数取り出し、玄関へ向かった。
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