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「なんでそんな大事なこと籍を入れる前に言わないの!」
「だって、言ったところで何も変わらないだろ」
「変わるYO!超変わるYO!恋する気持ちを諦めて結婚はしてほしくなかったYO!なんか責任感じるじゃねぇかYO!」
感情が混乱してしまって、我知らずにエアマイクを持ちながら手をラッパー風に上げ下げしてしまう。
妻は混乱している。妻は心をかき乱されている。
「何も変わらないよ。僕なんかが彼女とどうこうなれるわけがないってわかってたし、僕なんかに好きとか思われてるの知ったら彼女も嫌がるだろうし」
卑下する言葉に、私の脳内に降臨していた謎ラッパーがスッと消えた。
代わりに別の怒りに似た感情が湧いて、「弘さんっ!」と勢いよく隣に座る。
「僕なんて、僕なんかって。弘さんは自分が思う以上にすっごく素敵な人なんだからそういうこと言わないで。自分まるごと認めてあげてほしいよ!」
「す、素敵なわけない」
「素敵なの!痩せてから益々素敵になったけど、痩せなくたって弘さんは弘さんの良い所がいっぱいある唯一絶対無二のオンリーワンの輝かしい人なの!なのに、なんで何もしないで諦めちゃうのよ」
私は何をこんなに熱くなっちゃってるのだろう、と心の隅では不思議に思いながら、呆然としている弘さんへ真剣な顔を向ける。
折角少しずつ自信を持ち始めているのではと期待していたのに、弘さんの自己肯定感の低さをまだまだ痛感させられる。
伝説の調教師という称号を得ているはずなのに私自身の未熟さも同時に感じられて胸が痛い。
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