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「お仕事は常務取締役補佐をされていると聞きましたが、どういうことをするんですか?」
長い間を開けてから、弘光さんは小さい声で「知らないです」と答えた。はて、知らないとはどういうことだ。
「父の会社での僕のポジションは確かに常務取締役補佐ですし、給料も毎月口座に振り込まれています。でも実際僕は家から一歩も出ていませんし働いてもいません。世間体を気にする父が次男は在宅だが立派に働いている風に見せたくて、そうなっただけなんです」
理解が追い付かずポカンとしてしまうと、弘光さんは「僕は中学三年生からずっと引きこもりです」とはっきりとした口調で告げてきた。
中学三年生と言えば十五歳だ。ということは十五年間も彼は引きこもっていたってことだ。そりゃあもうプロじゃねぇか。
「お家での退屈しない過ごし方を熟知されていらっしゃるんですね」
「…まあ。…はい」
「主にどんなことをしてるんですか?」
「ゲームです」
「ああ、ゲーム。いいですね。私もゲームしますよ」
「どんなのをするんですか?」
「えっと、スマホで育成ゲームみたいなものを」
「ああ。そうですか」
期待していたジャンルではなかったのか、束の間興味を持っていた瞳はまた下を向いた。
お金がないので高額なゲーム機なんてものは持ってないけど、スマホゲームにはハマっている。
特に最近ダウンロードしたもので、だらしないおっさんを様々な用法で調教して立派な青年に育成するゲームがあるのだが、暇さえあれば熱心におっさんを育てている。
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