右に曲がった訳

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 弘さんがエメラジョジョーンの店員さんに恋したのは、三年前の夏のことだったと、後からしつこく問い詰めたことにより知り得た。  長い長い引きこもり生活だったが、弘さんは実は一人ではなかった。  ぬらりひょん、という名前のミドリガメを飼っていたのだ。  だがある日、ぬらりひょんは天に召された。  悲しみに暮れた弘さんは、ぬらりひょんに立派なお墓を建ててあげようと勇気を振り絞って家を出た。  そして向かった先がエメラジョジョーン。  どの石が最適なのか、知識などなかった弘さんは店内を右往左往。そこへ声をかけてくれたのが彼女、浜口理央さんだった。  緊張のせいでしどろもどろでボソボソした声を出すので、もはや自分でも何を言ってるのかわからない程だったのに、彼女は弘さんを煙たがらず、親身になって話を聞いてあげ、そしてぬらりひょんのお墓にぴったりの石を選んでくれた。  そんな浜口さんの優しさに、弘さんは恋に落ちてしまったのだ。  それ以来、家を出る機会があればお店を覗きに行くが、話しかける勇気はなく、三年の月日が流れたと、まあそういうことらしい。 なんとも初々しい恋物語じゃないか。  赤い顔を隠すように俯いて話してくれた弘さんも、なかなかに可愛かった。  その話を聞いたあと、私は弘さんの淡い恋を応援しようと心に決めた。  何か、何か大事なことを忘れているような気はしたのだが、それが何なのかは思い出せないから、とりあえず置いといて。  弘さんが自信を取り戻すきっかけになればいいなとただ純粋に思っていた。
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