ファーストチャレンジ

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ファーストチャレンジ

 翌日、パートが終わって帰宅すると、早速弘さんと一緒にエメラジョジョーンに向かった。  今回も直前になって弱腰になり、「行きたくないっ。無理っ」と騒ぐ三十一歳男性を「じゃあ乳首吸えないよ!?いいの!?」と脅して説き伏せなんとか外に連れ出したのだが、弘さんはずっと俯きながら歩いている。  まあ、いつものことだが。  折角妻が買ってあげたいい感じの服を着てるのだし、どっから見てもいい男なのだからもっと胸を張ってほしい。  大丈夫だから、自信持っていいから、などの激励の言葉を伝えているうちにエメラジョジョーンに着いた。 「今日は挨拶だけでいいから。頑張ってね。私ここから見守ってるから」  入店を渋る様子の弘さんの背中を押し、私はお店の入り口横にある小さなスタンド看板に身を隠しつつ店内を覗く。  この女は何をやってるんだ、という眼差しを通行人から痛いほど浴びるが、弘さんの為なら私は恥を捨てる。頑張れ弘さん!  ジィッと見つめて様子を伺うと、カウンターにいた恋のお相手様である浜口さんが弘さんに気づいた。 「いらっしゃいませー」  なんとも透き通った美声じゃないか。まるでホトトギスだ。  だが、折角浜口さん自らが投げてくれた挨拶のチャンスを、弘さんは無駄にした。  背中を丸めに丸め、カウンターの反対側にあるブレスレットが並ぶ所へ逃げてしまったのだ。頭から足の先まで緊張でガチガチに固まっている感じが伝わってくる。  やれやれ、ここは私の出番かね。  弘さんの応援に向かおうと私自身も入店した。
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