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「いらっしゃいませー」と挨拶してくれる浜口さんに、ニィーッと笑いながら自然を装って弘さんの横に並ぶ。
目の前には綺麗な天然石を使ったブレスレットがいくつもあって早速目を奪われそうになるが、今は弘さんに集中しなくちゃ。
「弘さんっ。どうも、だけでもいいんだよ。頑張って」
空気だけを揺らすように囁くと、隣の男が「んごっ」と呻く。
「何か選ぶふりして話しかけるのもありだよ」
「選ぶって、な、何を」
「それは…」
答えようとしたまさにその瞬間、私の意識はある文字に引き寄せられてしまった。
もう目が離せない。早速弘さんの恋路など頭から消えてしまった。
なんでって、だって。
金の亡者である私を激震させる文字が一つのブレスレットの下に書いてあるんですよ!?
これさえ付ければ金運爆上がり!ってね!
か、買うしかねぇじゃねぇか!いくらだ!いくらで手に入る!
震える両手でブレスレットを取ろうとしたところで、声が聞こえた。
「何かお探しですか?」
ホトトギスが熊に話しかけたのだ。
だがどうでもよかった。私は今この金運爆上げブレスレットのことしか気にならない。勝手にやっていてくれ。
「い、あ、え、っと」
「ブレスレットにご興味がおありですか?」
「い、い、や。あ、こ、こんにちは」
「へ。…あ、はい、こんにちは」
ブレスレットの値段を確認した直後、熊が逃亡したのに気づいた。
恐らく挨拶を交わすという条件をクリアしたので、もういいだろう僕は帰るぞ!という感じだと思う。
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