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「…だいたいさ」
「うん?」
「なんで君がここまでするの?」
「そりゃあだって、弘さんの恋を応援したいから」
「…でも、僕たち一応結婚してるのに、あの人にこんなことしていいの?」
そう訊かれて、思い出せなかった忘れ物がなんだったのか思い出せた気がした。
そうだった。
私と弘さんは婚姻届けに判を押して役所に提出した正真正銘の夫婦でした。
一番大きな障害を見落としていた。
「それもそうだったね…。あ、でも大丈夫だよ」
「何が」
「浜口さんといい感じになれたらすぐ離婚すればいいんだし」
すると弘さんの片目が僅かに細くなる。
「でも、君はお金が欲しくて僕と…」
「そうなの。だからね慰謝料はたんまり欲しいの。一年くらいは仕事しなくていいくらい。できるかな?」
「…多分。父さんがいいって言えば…」
本当は一生無職で生きていけるくらいの額がほしいが、現在私の右腕に光る頼もしい存在が私の生活の保障を約束してくれているような気がするので、一年分できっと十分な量だろう。
「浜口さんが弘さんの世話してくれたら、お義父さん達にとっては問題はないと思うよ」
「多分ね…。でも君はいいの?」
「あったり前でしょ!私は弘さんに恋を諦めて欲しくないし私が妨げになってるのも嫌なの。それにね、お金お金って言うけど、世の中一番大事なのは愛なんだよ、愛!」
先ほど慰謝料をたんまりくれと言った奴の言葉には到底聞こえないのは自負しているが、弘さんに恋を諦めて欲しくない思いは本音だ。
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