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お見合い
かれこれ四十分ほど、私はお見合い相手の登場を待っている。
縁側の向こうには春の訪れを感じさせる美しい日本庭園。その景色のどこかから、ウグイスの鳴き声と鹿威しの爽快な音が続けざまに聞こえてきた。
父は隣で身を硬くさせ時々ハンカチーフで脂汗を拭い、私は気まずさを少しでも紛らわしたくて出された緑茶をちびちび飲む。
真正面はお見合い相手が座る予定なのでまだ誰もいないが、父の正面には風格のある中年男性が座り、苛立ちの表情で腕時計に視線を運ぶ。静かな和室では腕を上げる際の着物の衣擦れがよく聞こえた。
この人は父が勤める製薬会社の社長だ。
父と歳はそう変わらないと思うが、風格が違う。こちらを萎縮させるオーラがあるから父が緊張する理由がわかる。そして広大な土地やマンションをいくつも所有する資産家でもあるらしい。
借家暮らし、趣味はハムスターとの戯れ、一張羅が勤務時と同じスーツの父とでは月とすっぽんだ。
お見合い場所となっているこちらの旅館も社長の所有物なんだとか。
規模は小さいが、庭園や内装から、金持ってる人しか入れませんよ、という感じがひしひしと伝わってくる。
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