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プロローグ
その少女は、貴族の生まれだった。
それも、かなり上位の。
少女の父は、戦争の戦隊長として国の為に戦い、そして死んだ。
母は、身体は弱かったものの、医者として多くの軍人の命を救った。
そんな両親を見て育ったのならば、『自分も国の為に働きたい』そう思うのは当然の事だっただろう。
少女は6歳の頃、母に頼み込み伝手を使ってもらって騎士団の訓練に参加し始めた。
初めて持った剣は、6歳の身体には大きくて、重くて、とても扱えるようなものではなかった。
だから、身体が成長するまでは基礎体力をつけることにしていた。
木剣を振り、騎士団の訓練をただ見る毎日。
辛くなどなかった。
ただ、父のような軍人になりたいと、そう思っていた。
そして11歳。
少女は剣を扱えるようになり、騎士団に入隊した。
そして、初めての真剣を使った訓練。
相手は、同期で年上の男。
「こんなガキ、殺しちまわねぇか心配だわ」
そう、見下すように男は笑っていた。
実際、そうだろう。
しかし、現実はそうではなかった。
凛と構えられたレイピアと、それに相対する男の剣。
はじめ、の号令が出された後、勝負は一瞬だった。
それはまるで、踊っているかのようだったという。
妖精のように舞い、相手の剣を払い落とす。
勝負は一瞬にして決した。
「──審判」
少女は唖然とする審判に声をかける。
審判だけではない。周りで見ていた全員が言葉を失っていた。
「審判」
「あ……
ただいまの結果、エルザ・カペルの勝利とする!」
周りの観衆は動かない。
それほどまでに、少女の──エルザの剣は圧倒していた。
「許さねぇ……
こんなの、許せる訳がねぇ……!!」
そう呟く声の主は、先ほどエルザに敗れた男だった。
「だって俺様はぁ!!将来騎士団長と男なんだぁ!!
こんなガキに、負けてたまるかよぉ!!」
そう言うや否や、男は落ちている剣のもとへと走りだし、その剣をエルザに向ける。
「……」
しかし、エルザは男の方を見るまでもなく剣を避け、そして剣を再び振る。
今度は、払い落とすのではなく、剣自体を折ってみせた。
その様子に、観衆は今度はどよめく。
この少女は、この若さで剣を折る技術を持っているのかと。
「審判。
次の試合を始めないと、訓練に遅れが生じます」
エルザはただ冷静に審判に告げる。
「あ……
つ、次の試合は───」
審判は慌てて訓練を進める。
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