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5年が経った。
エルザの手の震えは、5年経っても治ることはなかった。
行く先々の戦地で、戦争というものを意識させられると──具体的には戦場に騎士として立つと──手の震えが止まらなくなるのだ。
しかしエルザは戦い続けた。
エルザは騎士だから。
何度も何度も恐怖に呑まれ、我を失う。
その恐怖を克服するために、また戦場に立つ。
その荒療治のお陰か、我を失って戦う事だけは無くなった。
しかし、手の震えだけはどうしてもなおらない。
それでも、エルザは戦い続けた。
そして、エルザは普通の軍人ならまずしない『あること』をしていた。
戦死者を、弔うのだ。
自国の騎士だけではない。敵国の──連合の軍人すらも、同じように扱い、弔うのだ。
最初こそ、止めようとする人はいた。
しかし、シリウスの計らいで止められる事は無くなった。
エルザは毎回、自分の戦った戦場の戦死者を弔い、そして戦死者の前で懺悔する。
殺してしまった事への罪悪感。
それから逃れる為に。
しかし、他者からはそれは違う風に捉えられた。
『敵味方問わず弔う、戦場の女神』
『慈愛の心に満ちた美しき騎士』
いつしかエルザは、戦場の姫という敬意を込めて、『戦姫』と呼ばれるようになっていた。
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