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日差しに赤外線が混ざり、斜めに長く影を作る。午後の陽光が照りつけて、あの家の輪郭を浮かび上がらせていた。
見上げる先、こちらがわに向いた壁面はすっかり影となっていて暗い。
新築の家の窓が見える。
外から入る採光のせいか、室内は明るく見える。
人影が見える。
寄り添うような、ふたつの人影。
目が合うように思えた。
まるでずっと待ち続け、待ちわびたかのように。
生まれたばかりの、息をするだけのぬくもりを掻き抱き、かつて居た場所へと回帰する。
見すえて息を吐く。かまうものか。
手にした新しい命に目を向ける。これは新たな好機。
女の姿をしたものは、急な坂をゆっくりと登っていった。
< 了 >
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