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 子どもは毎日、山の上の古い家へと足を運んだ。  次第に、細い身体に健康的な肉がついた。同時に心も満たされたせいか、自然と表情や受け答えも明るくなった。  少女の家には普通にあるような電気製品がほとんどなかった。電気は通じていて照明、洗濯機や冷蔵庫はあるが、ほかは昔のまま時が止まったかのような生活をしている。  子どもが欲しがりそうな携帯電話やゲーム機器もなければ、テレビや録画装置もない。  ここで遊べるおもちゃと言えば、お手玉、おはじき、知恵の輪、すごろく、けん玉、独楽、メンコ、輪投げ、折り紙、そして少女が好んで幾度もやりたがったのは、あやとりだった。  やったことのない遊びだったが、教えてもらううちにすいすいと相手ができるようになる。  ふたりで、綾——交差した形——を交互に取り合う。  両手首に赤い編み紐を巻き付け、中指で向かい合う紐を取って形を作り、少女がどうぞ、と差し出してくる。  対象の交差を両の親指と人差し指でつまみ、回しながらすくい上げれば、たんぼのできあがり。外側から回してすくい上げると、かわ。  小指で紐を引っかけ、親指と人差し指で二本取りの平行をすくい上げると、ふね。  横から交差をつまんで内側へと回し入れると、逆手の状態で再びたんぼとなる。しかし最初とはすこし形状が異なる。  少女は言った。田んぼの水は川へと流れ、笹船はふたたび別の田へと流れていって——
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