忌諱(きき)に触れる (Youtube 【怪談生朗読】2023年7月29日)

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「あれから、犬の散歩に出ると必ずカラスに出くわすんです。なんというか観察されてるみたいで……目を上げるといつもそこにいるんです。このあいだなんて……」  急に口を閉ざす。  ふと、彼女の目線が逸れ、店の奥へと顔を向けた。ゆらゆらと左右に彼女の身体が振れて、視点が定まらないのがうかがえた。  その間、何秒もかかってなかったかもしれない。  だがずいぶんと長く感じた。身体ごとこちらに向いた彼女の顔色が、照明のせいか妙に白く見えた。  すみません、と平坦な調子で言った。 「わたし、おかしなこと言いましたね」 「いえ、……そんな」  いいんです、と彼女が頭を横に振る。 「自分でもわかってます、気にしすぎだって。でも」  ふう、と息を吐いた。呼気にアルコールが混じっている。こちらに向けた彼女の目をまともにとらえた。  途方にくれている。そう感じた。なかばあきらめたかのような——、共感してくれる相手はいないのだと悟って、失望の色が浮いている。 「カラスの目って、あんなに赤く光るものなんですね」 「なんですって?」
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