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「あれは動物の目に反射板がついているからなんだそうですよ。網膜の後ろにあるタペタムという層に光を反射させて、暗がりでも見えるように視神経に伝えてるそうです。人間にはないらしいですけど」
「よくご存じなんですね」
「ああ、実家に黒猫がいますから。視線を感じて、ふと部屋の隅に目をやると眼を光らせてこっちを見てて、びっくりするなんてことはしょっちゅうです」
「そうですか、でも猫の目って赤くは光りませんよね」
真顔でそう返される。
わずかに目線を下げて、しばし静止していた。「どうしたら——」と言葉をこぼす。
うつむいた彼女の唇だけが動く。表情は見えず、発した声が聞き取れない。
ふたたびこちらへ顔を向けたときには、彼女は笑顔になっていた。
スマートフォンに手を伸ばし、画面の時刻を確認する。
「わたし、そろそろ失礼しますね」
なにごともなかったかのようにそう言われて、内心ほっとした気持ちになった。
グラスに残った冷酒を一気に煽り、彼女はカウンターの向こうの店主に「お愛想、お願いします」と伝えた。
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