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「今日は家族全員が遅くなるって言うので、わたしも仕事終わりにゆっくりさせてもらおうと思ってここへ来たんですけど」
彼女はわずかに表情を曇らせる。
「ちょっと家に帰りづらくて」
箸を持つ手をカウンターに降ろし、小皿に置く。冷酒のグラスに手を伸ばしたまま静止する。
「じつは、犬の散歩で自宅から少し離れた場所まで歩き回るうちに、近くの河川敷にオニクルミの木が生えているのを知ったんです」
こう、と両腕で円を作る。
「大人が手を回しても届かないくらいの幹の太さがあって、大きいんですよ。誰が植えたわけでもなく、子どもたちが野球の練習をする広場の脇に二本、ちょっと進んだ遊歩道の脇にもすこし間を空けて五本くらい、並んで生えてるんです」
突如はじまった話の内容に少々面食らいながらも、聞いていますよ、と応じるようにうなずいてみせる。
「へぇ、そうなんですか」
「で、秋になると実がなるんです。たくさんね。見たことあります?」
「え、 鬼胡桃? の木ですか?」
「いえ、実です。こんなふうに——、実がなるんですよ」
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