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カウンターに置かれたコースターにゆっくりとグラスを戻し、目線を落とす。
天井からの照明が水面に映り、波紋のうえでゆらゆらと光点が揺れる。そのようすをながめているようだった。
「でも、けっこうな高さの木だから、……そう、マンションの三階くらいはあると思うんですよ。だから、上のほうはいくら長めの棒でひっぱたいても人の手では届かないはずなんです。あのあたりにリスが棲んでると聞いたことはないし、冬で葉が落ちて枯れ木になったら全部無くなってて……不思議じゃありませんか?」
「地面に落ちて、そのへんに転がってたりするのでは?」
「それが——、気になって探してみたんですけど、だれかが採ったあとなのか、殻が割れて中身が無くなってるのは落ちてても、丸のままなのはないんです」
「へぇ……」
「で、ですね、このあいだ犬の散歩のときに見たんですけど」
言いながら、店の奥へと視線を向ける。一点をみつめている目。記憶をながめている。
「カラスが……、電線にカラスがとまってて、黒いクチバシに丸いものを 咥えてたんです」
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