忌諱(きき)に触れる (Youtube 【怪談生朗読】2023年7月29日)

5/15
前へ
/15ページ
次へ
 ふと目を伏せる。長いまつげが、年齢に応じてわずかに緩んだ肌の上に影を作る。疲れているのだろうか。  口を開いて——、  わたし、視線を感じたんです。  そっちを見たら一羽のカラスが電線に止まっていたんです、と独り言のように静かな口調で続ける。  カラスは真っ黒いものを(くわ)えてて、そうね……三センチくらいの大きさで、丸いんです。うまいこと、大きなクチバシを広げて——、と言いながら彼女は両の手を合わせ、上下に重ねると手首のところからぱか、と開いた。  指をやわらかく曲げて、まるいものを包みこむようにしてみせる。 ——こういう感じで、ボールみたいなものを上手に挟んでいるんですよ。  店内の雑多な音を背景にし、まるで今見ている光景のように語る。  彼女は真顔で続けた。  よくあんな丸いものを、器用に(くわ)えられるものだと感心して見てました。  そしたら、それを電線から落としたんです。  大きなマンションが近くにあって、壁に音が反響して聞こえるのか、妙に響いていました、カツーンって。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加