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ふと目を伏せる。長いまつげが、年齢に応じてわずかに緩んだ肌の上に影を作る。疲れているのだろうか。
口を開いて——、
わたし、視線を感じたんです。
そっちを見たら一羽のカラスが電線に止まっていたんです、と独り言のように静かな口調で続ける。
カラスは真っ黒いものを 咥えてて、そうね……三センチくらいの大きさで、丸いんです。うまいこと、大きなクチバシを広げて——、と言いながら彼女は両の手を合わせ、上下に重ねると手首のところからぱか、と開いた。
指をやわらかく曲げて、まるいものを包みこむようにしてみせる。
——こういう感じで、ボールみたいなものを上手に挟んでいるんですよ。
店内の雑多な音を背景にし、まるで今見ている光景のように語る。
彼女は真顔で続けた。
よくあんな丸いものを、器用に 咥えられるものだと感心して見てました。
そしたら、それを電線から落としたんです。
大きなマンションが近くにあって、壁に音が反響して聞こえるのか、妙に響いていました、カツーンって。
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