忌諱(きき)に触れる (Youtube 【怪談生朗読】2023年7月29日)

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 通りにはわたし以外、だれもいなくって。どこからも見てる人もいなくて。ふだんなら人通りがあるのに、だれもいないなんて珍しい、誰かに教えてあげたいのに、などと考えてました。  その通りは、そんなに車が通らないんです。  だからどうするつもりなのかなって思ってたら、何回か落としているうちに、ふたつに割れたんです。  カラスは喜んだかのように、これまでと違う反応で素早く舞い降りて……—— 「夢中になって、中身をつつき回して食べてました」  ふと、遠くを眺める目を細め、彼女は口もとに笑みを浮かべた。 「ああ、なるほど、あんなふうにカラスが食べるから木の上の 胡桃(クルミ)も無くなるのか、と腑に落ちました。でも」  急に口ごもる。妙な間が落ちる。 「でも?」と訊き返していた。 「数日後、また同じ場所で同じ光景に出会いました」 「同じカラスですか?」 「ええ、たぶん。……いえ、わかりません。みな同じに見えますから」  でも、と彼女は繰り返した。 「また河川敷から運んできたクルミの実を落っことしてる、と思ったんです——」  出かかる言葉を抑えようとしているかのように、彼女は右手で口もとを覆った。
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