忌諱(きき)に触れる (Youtube 【怪談生朗読】2023年7月29日)

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 かすかに声が震えている。 「カラスはそれを口に咥えて、飛び去ろうとしました。そしたら——」  彼女は「脚が」とだけ言って、口ごもる。  言葉が続かない。 「脚?」  思わずこちらから口を開く。先を促すために。  彼女の居ずまいに迷いが見えた。ようやく意を決して口を開く。 「ええ、細い脚が……すべて、空中でぱっと広がりました、四方に。黒い輪ゴムみたいに伸びてカラスの口にまとわりついたんです」 「……」  予測もしていなかった展開に、返す言葉は消えた。このひと、なにを言い出すんだ——? 「わたしには、そのように見えました。カラスはしばらく暴れていましたが、そのまま飛び去りました」 「……はあ」 「残された殻も変だったんです」  いえ、あれは……殻じゃ無かったのかも、とこぼすように呟く。  気になって訊ねた。 「どうしてですか?」 「だって、なくなってたんです……なんか……融けていて……、たしかに半球のかたちをしていたはずなのに、カラスがいなくなったら、黒い油みたいになっててアスファルトに、べったり」  貼りついてました、と呼吸を吐きながら、彼女は力なく声を発した。
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