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かすかに声が震えている。
「カラスはそれを口に咥えて、飛び去ろうとしました。そしたら——」
彼女は「脚が」とだけ言って、口ごもる。
言葉が続かない。
「脚?」
思わずこちらから口を開く。先を促すために。
彼女の居ずまいに迷いが見えた。ようやく意を決して口を開く。
「ええ、細い脚が……すべて、空中でぱっと広がりました、四方に。黒い輪ゴムみたいに伸びてカラスの口にまとわりついたんです」
「……」
予測もしていなかった展開に、返す言葉は消えた。このひと、なにを言い出すんだ——?
「わたしには、そのように見えました。カラスはしばらく暴れていましたが、そのまま飛び去りました」
「……はあ」
「残された殻も変だったんです」
いえ、あれは……殻じゃ無かったのかも、とこぼすように呟く。
気になって訊ねた。
「どうしてですか?」
「だって、なくなってたんです……なんか……融けていて……、たしかに半球のかたちをしていたはずなのに、カラスがいなくなったら、黒い油みたいになっててアスファルトに、べったり」
貼りついてました、と呼吸を吐きながら、彼女は力なく声を発した。
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