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三月も半ばになり、とうとう卒業式当日の朝になった。出席確認が終わり、体育館への移動開始の放送が流れるまで休憩という名の先生も交えた雑談タイムになる。
――最初は、卒業なんてしたくないと思っていた。なぜなら、中学受験をして受かったら今の友達とは違う学校に行くことになるから。公立中は学力も性格もてんでバラバラな奴が集められているが、私立中となるとそうはいかない。
今のようにふざけたり馬鹿話をすることは少なくなるだろう。中学校という新しい環境に放り込まれるのは私立だろうが公立だろうが同じだが、見知った顔と別れるのは大きな違いだった。だが――。
「なんか、楽しみなんだよなー。」
知らない奴。知らない環境。おそらく俺よりも頭が良い奴もいるだろう。だが、そこに見知った顔が一人でもいるのは大きな違いだ。
そして、学力も性格もてんでバラバラな者たちが寄せ集められる環境にどんな奴がいるか、どんな天才がいるのだろうかという私立中よりも想像もつかない世界が開けるのが楽しみなのだ。
もっと言えば、各校に一人ずつくらいはいるであろう天才とテストで競い合い、打ち負かすことが。打ち負かすためにまた必死で勉強することが。
担任の先生は言っていた。人と比べても仕方ない、と。
「でもさ、人と比べてモチベーション上がるんだったらいいよな」
「おい、貴翔ー。何か言ったか?」
担任の先生の声にギクリとする。
「中学に行って、他の学校から来る天才にどうやって勝とうか考えてましたー」
冗談交じりに言うと、ドッと笑い声が弾けた。
「俺も天才でーす」
間宮が言って皆が馬鹿笑いする。そう、俺が進むのはこんな馬鹿笑いできるような奴らと一緒の中学。
「さあ、そろそろ体育館に移動するぞ」
閉式後、誰から言うでもなく俺たちは仲の良い奴らと保護者も巻き込んで校門やら校舎前やらで写真を撮りまくった。
「受験は落ちたけど、みんなと同じ中学に行けるからそりゃそれで嬉しいかな」
校門前で写真を撮る時、俺は言った。
「まー、そういう考えもあるかもなー」
そして、またゲラゲラと皆で馬鹿笑い。生きていればいくつもある分かれ道。俺の進む方の道は、より広い世界に繋がっているのだろう。
帰ったら、もう一度あのノートを見返してみよう。そして、中学校に向けて問題集のまとめ問題をもう一度やり直してみよう。校門へ向かう足取りが無意識のうちに弾んでいた。
九回裏、サヨナラ逆転ホームラン。俺たちの球はどこへ向かうのだろうか。
(完)
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