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「えっ、……あの……」
かあっ、と頬を赤らめて口をもごもごさせ、
愛也が困惑顔を見せる。
断らない時点でイエスと答えたも同然だが。
こうして返答に詰まる様子が愛らしいので、
それは、黙っておこう。
「ハハ、行ってきます」
そろそろ大嶋さんからマンションの下に到着
したと、携帯にメッセージが届く頃かもな。
このまま戯れていたい欲を振り払うように、
シューズボックスの上のキーケースを手にし
た俺が、それを後ろポケットに納めてから、
目の前のドアのロックを解錠しようとした、
その時。
「直生」
背後から名前を呼ばれ「ん?」と振り向く。
愛也は、恥ずかしそうに視線を伏せたのち、
ゆっくりと口を開いた。
「約束、……守ってね」
『可愛がってね』という意思表示なのだと。
下ろした腕のパーカーの袖口を握りながら、
所在なさげにしている様は思わぬ破壊力で。
一瞬で触れたくなって。
衝動的に左手を掴んで無防備な唇を奪うと、
そのまま舌を絡め取る。
昨夜ベッドで交わした口づけとは異なった、
優しくて緩やかな行為。
数秒後、音を立てて啄んでから見下ろすと、
とろん、と潤んだ瞳がこちらに向けられた。
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