Happy ever after

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ぽつり、と苦笑気味に呟かれた言葉を聞き、 私は悠生に向けていた視線を正面へと戻す。 すると、どこか残念そうな笑みを見せつつ、 香坂さんはこう続けた。 「最近、店長と二人で話してたんだけどね。 来年でお子さんが3歳になるタイミングで、 職場復帰については考えてるのかな?って。 小早川さんを急かすつもりは本当になくて。 ただね、戻ってきてくれたら嬉しいねって、 伝えておきたかったの」 「……。 ありがとうございます」 香坂さんを通して届けられた職場の思いに、 ジンと、胸が熱くなる。 産休前、最後の出勤日。 店長と香坂さんから『いつでも待ってるから ね』と、温かく送り出してもらったことは、 涙ぐむほど嬉しかった。 あらためて良いチームに恵まれたと思った。 そういう職場が大切だし大好きだったから。 出産後、1年くらい休んだら息子は預けて、 復帰するつもりでいて。 けれど。 心から愛する人との間に産まれた我が子は、 なによりも愛おしくて。 せめて息子が小さい内は成長を見守っていき たくて。 直生を、陰ながらサポートしていきたいと、 専業主婦の道を選んだ。 出産は、かけがえのない経験であると共に、 自分の守りたいものが変わったきっかけでも あった。
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