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「酔いが冷めたら先にお風呂入っていいよ。 ゆっくり暖まってきて」 「はい。 ありがとうございます」 ソファに並んで窓の外の夜景を眺めながら、 のんびりと会話をする。 今夜は結婚式の夜でそれこそ初夜なのだが、 一緒にお風呂に入ろうかとならないのには、 ちゃんと理由があった。 というのも今日は朝からずっとバタバタで。 分刻みのスケジュールをこなした疲労感で、 挙式後、どちらもぐったりとしてしまって。 体力を消耗したせいかそういう気になれず、 お風呂に入ったら休もうとなったのだった。 ブライダル情報誌のサイトで経験談が載って いたが、一般的にはよくあることみたいだ。 「明日は10時にルームサービス来るから。 ここのクロワッサン美味しくて有名だって」 「わあ、楽しみです!」 パン一つで無邪気に喜ぶ姿にほっこりする。 同時に、胸に確かな愛おしさが込み上げて。 横から、膝に置かれた色白の左手を取ると、 姿勢を正して口を開く。 「愛也」 「はい」 「これからもよろしく。 末長く」 お揃いの結婚指輪を嵌めた指に唇を落とす。 教会で、正式な誓いの言葉は述べたけれど。 愛する妻を前に無性に言いたくなったのだ。
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