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「はい」 愛也は、柔らかく満ち足りた表情で頷くと。 「……こちらこそです。 よろしくお願いします」 ごくわずかにアーモンド型の瞳を潤ませる。 言葉は、いらなかった。 空いたもう片方の手で肩を引き寄せ腕の中に 収める。 これから何があっても。 全力で、守っていこう。 「愛してる」 背中越しに告げながらぎゅっと力を込める。 そうしてあらためて幸せを分かち合った夜。 しばし、二人で熱い抱擁に浸ったのだった。 3日後。 20時。 仕事を終えてマンションの下まで車で送って もらい、いつものように玄関に入った直後。 廊下の突き当たりにあるリビングのほうから 「くしゅん!」とくしゃみが聞こえてくる。 今朝も、側にティッシュとゴミ箱を置いて、 手放せないようだった。 大丈夫だろうか?と体調を気にしつつドアを 開くと、パーカー姿でソファに座る愛也が、 立ち上がって出迎えた。 『風邪を移しちゃいけないから』と言って、 昨日から部屋の中でもマスクを着けている。 「おかえりなさい直生。 晩ご飯温め直しますね」 「あっ、いいよやるよ。 風邪なんだし休んでて」 「ふふ、大丈夫ですよ。 熱とか咳はないですし。 それにじっとしてるより家事してたほうが、 気が紛れていいんです」 キッチンに行く後ろ姿を追おうとした俺に、 小さく笑いかける愛也。
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