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「最近忙しくて二人の時間とれなかったし。
ごめん」
ここしばらく朝は早くて夜は遅かったから、
帰宅後はシャワーを浴びて寝るような生活が
続いて、コミュニケーションも減っていた。
お互い、仕事をしていれば多少仕方ないが、
それでも一緒に暮らしていてすれ違うのは、
寂しい。
待つ側ならばなおさら。
プリンは寂しい思いをさせたお詫びの気持ち
だった。
「あと、これ旅行会社でもらってきたから」
さっき、さりげなく右手に持ち換えた四角い
ビニール袋を差し出す。
中身は東京近郊にある温泉宿のカタログで。
旅行が趣味の事務所スタッフが近々足を運ぶ
と聞き、持って帰って欲しいと頼んだのだ。
「新婚旅行の行き先に良さそうだったから。
今日はゆっくり話そう」
「わあ、すごく嬉しい!
ありがとうございます」
愛也が2つの袋を手に満面の笑みを見せる。
温泉地に決まったのは今年の春頃のことだ。
本当は、ハワイとかヨーロッパとかもっと記
念に残る場所へ連れて行ってあげたかった。
だがスケジュールは大まかに1年先まで入っ
ていて、まとまった休みは取れそうもない。
『温泉、行きたいです』
付き合いの長い愛也は予想していたようで。
たった2日間という短い新婚旅行に対して、
笑顔でそうリクエストしてくれたのだった。
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