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力なく下ろされた腕。
その表情からは、疲労の色が滲み出ている。
「大丈夫?」
「うん。あと少しの辛抱だから」
「ラストスパートだね」
「そうだね。交際も認めてもらえたんだから、絶対合格しないと」
そう言って春はにこやかに笑う。
頑張る理由がそこでいいのかな? って思ったけれど、春のやる気に繋がっているのならいいや、って無理やり自分を納得させる。
「それって、チョコ?」
私の手に握られた包みに、春が視線を落とした。
春が学校へ行った直後を見計らって、作り始めたのはトリュフチョコ。バイトの時間も迫っていたから、時間が押している中で急いで作ったものだ。
夕方に帰ってきてからラッピングをして、春が帰ってくるまでに完成させた。
こういう時、料理が得意でよかったと思う。手際が良くなるもんね。
おじさんとおばさん、そして郁兄には、友達と一緒に作ったガトーショコラを渡したけれど、春に渡すものだけは中身が違う。
1人だけ違うとか、ちょっとわざとらしくて恥ずかしいけれど、みんなと同じものだけは避けたかったから。
「俺宛てだよね?」
「そうだよ。いる?」
「いる」
素直な返事に笑いながら手渡した。
「ありがとう。ちなみに本命だよね?」
「うっ」
思わぬ切り返しに頬が熱くなる。
なんだろう。最近の春は、本当に強気だ。
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