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◇ ◇ ◇
ここは、とある悪魔が住まう館の前。
嘘です。郁兄の部屋の前。
「こんこん」
「口で言ったらノックじゃないだろ」
「はいりまーす」
その突っ込みに触れることなくドアを開く。
ベッドを背もたれにしながら、郁兄はスマホをいじっていた。
その隣に近づいて座る。
「チョコいる?」
「いる」
「彼女さんから貰ったなら私の要らないのでは」
「いるっての」
ん、と手の平を向けられて催促される。
その上に、本日の主役をポン、と置いた。
愛らしいラッピングに包まれた中身は、なんと私のお手製もの。友達から「手作りチョコを作りたいからやり方教えて」とせがまれて、一緒に作ったガトーショコラだ。
どうせだったら気合の入ったもの作ろう、なんてノリで作ったチョコスイートの定番もの。しっとり濃厚で、でも重過ぎない最高の出来上がり。誰かにあげるのがもったいないくらい。
可愛くラッピングをして、バレンタイン用のシールも貼った。スーパーで売っているものよりも、遥かに手が込んだ仕上がりに見える。
「義理ですよ」
「わかってるし」
どーも、と素っ気無い返事が返ってくる。
せっかく丹精込めて作ったのに、もうちょっと嬉しそうな顔してもいいんじゃないですかね!
とはいえ、これが郁兄のスタンスなので何も言わないでおく。
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