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毎年この時期になると、私は多忙の身を極める。料理もお菓子作りもプロ級の腕前は、クラス中の女子からも絶賛の嵐なんだから。手作りチョコも、ケーキだって、私の手に掛かれば余裕です。
かくいう私も例外ではなく、毎年この日には、春と郁兄とおじさんにチョコをあげている。ついでにおばさんと友達にも。
バレンタインデーは好きな人にチョコをあげる、そんな形式はもう古い。あげたい人にチョコをあげるのが今風で、身構えるほど重い行事でもなくなった。
それでも私は、クラスの男子にバレンタインチョコをあげたことはないけれど。
「ホワイトデー、期待してまーす」
「はいはい」
1ヵ月後のお返しを催促して腰を上げた時。
「お前、結構言うな」
「え?」
「親父との事」
はたり、と瞬きを落とす。
何のことだろうと一瞬考えて、春と交際したい旨を告げた時のことかな、と思い至る。
好きな人に、好きって伝えられる事。些細なことだけど、それだけで幸せなことなんだと私は思う。明日にはもしかしたら、伝えられなくなるかもしれないから。そんな未来は考えたくないけれど。
好きって伝えたい時に、伝えられる相手が側にいない辛さは、誰よりも知ってるつもりだ。
「ちょっと感動した」
「本当ですか」
「おう」
「ありがとうございます。感動しながら人のプリン食べやがったんですねこのやろう」
「焼きプリン買っておいたから」
「焼いたのはやなの! 生がいいの!」
「はいはい」
さっさと春樹んとこ行け、と追い払われる。
むっとしながら立ち去ろうとした時、あ、と郁兄に引き止められた。
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