122人が本棚に入れています
本棚に追加
予想だにしていなかった人物の名に、私はぱちりと目を丸くする。困惑を隠せないでいると、春はポケットからスマホを取り出、私の前に画面をかざしてくれた。
ずらりと表示されている着信履歴。
その一番上の欄に、件の名前が載っている。
なんてこった。青天の霹靂だ。
「……あの郁兄が、お迎えに」
「……うん」
「……雨降るかな。いや雪かな。みぞれかな」
「雪もみぞれも勘弁してほしいね」
確かに。今はまだ紅葉煌く秋の季節だ。
とはいえ、このショッキングな事態に雪んこ様もフライングしちゃうかもしれない。それ程までに、この出来事は私と春にとって衝撃的な事件なのだ。
その例の人物───
私と春より2つ年上の郁兄、桐谷郁也は、春に負けず劣らず端正な顔立ち。間違いなくイケメンの部類に仲間入りする人物。
兄弟というわりに、顔はあまり似ていない。中身に至っては、まるで正反対だ。
大人しく温厚な性格の春と比べて、郁兄は少々、いやかなり難アリな性格をしている。
いや、難アリっていうか、あれはもう───
「悪魔だね」
下駄箱の中に上靴をポイッと突っ込んで、勢いよくロッカーの扉を閉める。カラン、と地面に落とした外靴に片足を引っ掛けながら、私はもうひとりのイトコを、そう吐き捨てた。
最初のコメントを投稿しよう!