赤い花の守護司

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赤い花の守護司

 王城の地下に罪人を捕らえる部屋がある。そこにひとりの少年が鎖に繋がれていた。どれほど囚われているのか傷だらけの体は痩せ、黒い髪も腰ほどに伸びている。ひと筋だけピンクゴールドの色がある。そして、右腕に赤い花の痣。5枚の花弁、木の枝と草の葉っぱが混ざったような模様。  彼はサマハザンフィル王国、第一王女の守護司フォドル。齢15。姫君より3つ年上だ。この国では王族と守護司は特別な縁で結ばれる。守護司の家に生まれた者は来る日までに知識と技術を魔力を磨き備える。仕える王族が生まれると体のどこかにその子どもと同じ痣が浮かび上がる。そして、ひと筋だけ髪色を変えるのだ。誰が見ても唯一の守護司であるとわかるように。  フォドルが反逆罪と閉じ込められて9年。どんな責め苦を受けたとしても認められない。わかるから。守護司は仕える相手を間違えない。あの姫君は自分の護る相手ではない。  フォドルはピクリと反応した。また誰かが傷めつけに来たのかと。その表情はすぐに困惑に変わる。音が違う。こんな潜めるような近寄り方しないはずだ。衣擦れの音。鍵の音。ランタン を手に現れた姿に目を見開く。  「ロクサーヌ様!?」  「ああ、ああ、なんて、ひどい……! すぐに出してあげる」  サマハザンフィル王国の妃ロクサーヌはフォドルの姿を認め声を震わせて駆け寄ってくる。鍵をこれでもないと試しながら激しい動揺で震えている。フォドルのひと筋だけ色を変えたピンクゴールドとよく似た色合いのまっすぐな髪を振り乱しようやく牢の鍵を開け、涙を零しながらフォドルの拘束を解いていく。その酷く冷えた手に眉をひそめ気遣わし気な視線を送ればロクサーヌは僅かに笑んだ。  「あの子は、城にいる姫は、私の娘じゃないのね」  「!」  「あなたが仕えるのを拒否したという時点でちゃんと調べれば良かった。ごめんね、弱くて、愚かで……こんなに遅くなって。こんな扱いをされていると思っていなかったなんて、言い訳にもならないわ。フォドル、フォドル……勝手なことを言っているとわかっているわ。でも、どうか……っ」  ロクサーヌの言葉が途切れてその体が崩れ落ちた。いつの間にか背後に迫っていた敵が斬りつけたのだ。倒れ伏したロクサーヌの指先がフォドルの足に触れる。温かいものが体に流れてくる。癒しの魔法。慌てて足を退く。苦痛に顔を歪ませながら涙に濡れる瞳が懇願する。  「お願、い……あなたの本当の主を、私の娘を、探して! 守って!」  その言葉で自分の斬ったのがこの国の一番地位の高い女性だと気付いた男が剣を取り落とした隙を逃さずフォドルは相手を殴り飛ばした。そして、すぐにロクサーヌを抱き上げる。意識を手放した白い面。自分の主はこの人に似ているだろうか。主でなくとも王族が接触したお陰で魔力が跳ね上がっている。ロクサーヌが深手を負いながらかけてくれた治癒魔法で動きに支障はない。  「必ずや、姫君を探して守ります。きっと連れて帰りますから……生きてください、ロクサーヌ様」  不敬かと思いつつ耳元に囁き、フォドルは風の魔法を使って地下牢を破壊して脱出すると王の寝所のバルコニーに飛んだ。気配に気付いた王、ファウロニアが窓を開け放ち抱えられたロクサーヌを見て息を呑む。  「ロクサーヌ様をお願いします。我らが太陽、ファウロニア王」  「そなた……フォドルか?」  「事情を説明する時間がないこと、お許しください。私は、姫君を探しに行きます。私の主を」
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