過去の残像

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過去の残像

 12年前、ロクサーヌが姫君を出産した夜のこと。一人の男がピンクゴールドの産毛がフワフワした赤子を抱いて城の裏口に立っていた。城内から近付く足音を耳に捉え、男はニヤリと笑みを浮かべ何も知らない赤子に声をかけた。  「おめでとう、お前は王女になるのだ」  男はアウゼンスター卿。王の遠縁に当たる貴族で2番目に偉い地位にいる野心溢れる男だった。ロクサーヌ妃と同じ色合いの妻を何人も迎え、まさしく同じタイミングで子をもうけたことが彼の計画を実行するきっかけになった。王女を自分の子と取り換え、タイミングを見計らって今の王族は娘を取り上げた非道な者と声をあげ王位を奪う。アウゼンスターはそれができると信じて疑わなかった。  青ざめ怯え切った侍女が赤子を抱いて出てきた。夜風にぐずる赤子を無視して王族の証である痣を露わにさせると転写魔法で自分の子どもに同じ痣を移す。そして満足げに笑い、王女と自分の子を取り換え侍女に戻るように合図する。侍女は青ざめ涙を浮かべながら振り返った。  「ひ、姫様を、どうするのですか」  「姫はお前が抱いているその子だ。……死にたいのか?」  侍女は引き攣った悲鳴をあげ城内に駆け戻って行った。被虐的な顔で見送っていたアウゼンスターはぐずる赤子に顔を顰めた。近くに控えていた護衛騎士の方に無造作に赤子を投げた。慌てて抱き留めた騎士を冷たく見やる。そのまま落として死なせておけば良いものを。  「適当に捨ててこい。生まれたことを後悔するようにな」  言い捨てアウゼンスターはさっさと踵を返す。用が済めば危ない場所にとどまる必要はない。侍女には見張りを付けてある。後は待つだけと楽し気にアウゼンスターは闇に紛れた。
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