あの人の言葉

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あの人の言葉

 愛していた。  そう思っていた。  愛されているのだと、信じていた。  だから自分にできることがあるなら、この人の頼み事ならば叶えてあげたいと、思った。  思ったから、何かおかしいと感じながらも、頼まれた通りのプログラムを組んだんだ。  プログラミングはオレの本業で、本当ならちゃんと仕様書を出してもらって仕事として受けなきゃならない。  でも、この人のお願いだからまあちょっとはいいかなって、そう思ってしまった。 『まあいいかな』っていう頼まれ事は何度も繰り返される。  あまりの頻度と、採算度外視で引き受けたプログラムの行き先がどうにも気になって、遂にオレは口を開いた。  そんなオレをつまらなそうに一瞥して、あの人は告げた。 「どうせお前はプログラム組むことしか能がないんだから、黙って、俺の言うとおりにしてたらいいんだよ」  自分を預けていた相手から、投げつけられた言葉が痛かった。  何度かの衝突の後、「つまらないから飽きた」とせせら笑うように言って、あの人はオレから離れていった。  何もできなくて、あの人の言うことを聞いていたオレは、何もできないままで。  だから、他のことをできるようになってやるって、思った。  オレは、オレに優しくない人のために、泣いたりしない。
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