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この砂色の服は、かなり機能的である。
顔を隠せるフード、ポケットは前に4つと両腕に2つ、更に内側にもついている。
通気性もよく、肌触りもいい。
生地はストレッチ性に長け、撥水加工も施されている。
デザインも派手ではないが、その分、着こなししやすいシンプルな物だ。
相良は少し遠慮はするが、この上着を頂けるならとてもありがたい。
黒髪の女子は、小さく頷き、本当に貰ってもいい事を表現した。
すると、相良は嬉しそうに笑った。
相良「ありがとう!!まじで助かります!!」
その無垢な笑顔に、女子は頬を赤く染めた。
「ねぇねぇお兄さんはあの辺の人?」
隣に座っている金髪の女子が、相良に問いかける。
雰囲気は黒髪の女子とは対照的で、派手で明るい子という印象だった。
しかし、この質問はどう答えたものか?
あの辺というのは、このバスに乗り込んだ場所の事を指しているのだろう。
しかし、少年院から出たばかりとは言い憎い。
適当に最近引っ越してきたとか、友達の家に泊まりに来ていたなど、嘘を付く事は簡単だが、それも良いとは言えない。
相良は少し考えたが、やはり正直に答えようと思った。
嫌われるかもしれないが、それはそれで仕方がない。
相良「今日…少年院から出てきたんです。」
流石に引くよな。
と思ったが、女子の反応は思っていた事とはちがう。
「えぇ!!そうなの!!ねぇなにやったの!!」
女子は驚きつつも、興味深々に相良に質問を続けた。
引くどころか、更にグイグイとくる。
だが、流石に30人殺した殺人者ですとは言えない。
相良「それは…ちょっと…」
「お兄さんはもしかして…相良剣一じゃない!!ほら、ヤンキー30人殺った!!」
無駄だった。
その女子の声は大きくバス中に響き渡り、他の乗客も白い目でこちらを見てくる。
「ちょっと声が大きいよ…」
黒髪の女子が、静かな声で金髪の女子を注意する。
金髪の女子はハッとして、手で口を抑える。
相良は人違いと言えばよかったのかもしれないが、なぜこの子が自分を知っているのかが気になった。
相良「あの…なんで知ってるんすか?」
相良も小声で質問をする。
「やば、えッ本物なの?やば、」
女子は興奮のあまり会話になっていない。
相良はもう一度質問する。
相良「だから、その、なんで俺の事知ってるんですか?」
「あっごめん。だってお兄さん地元じゃすごい有名だよ。」
相良「有名?」
「そうそうそう。ヤンキー30人をたった一人で皆殺しにした超強い人って。」
相良「それは、そうかもしれないけどさ。なんで、嬉しそうなの?」
「だって、お兄さんのおかげで、地元はすっごい平和になったんだよ。あれからヤンキー連中はめっちゃ静かになってぇ。うちが高校の時は、ヤンキーがめっちゃ偉そうにしてたけど、あの事件から静かになって、ヤンキーしてたら相良に殺されるーとかいわれてたみたいで。地元の人は皆相良君に感謝してるんだよ。ねぇ。」
「うん。」
隣の女子も肯定した。
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