『初めての』

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改札をくぐり、さらに階下のホームへとたどり着くと、ちょうど電車がホームに入って来るところだった。 開かれたドアから押し出されてくる人波が切れるのを待ち、入れ替わるように車内に入ると、空いている席に腰を下ろした。 「は~、ばり(・・)疲れたぁ……」 体がずっしりと重たくて、つい声に出してしまう。ドアが閉まる直前に乗り込んできた男性が隣に座ったので、慌ててマスクの下の口をつぐんだ。 連日続く立ちっぱなしのせいで脚はパンパン。笑顔を貼り続けた頬はもう一ミリも持ち上がる気がしない。 真優(まゆ)が働く百貨店もここのところ客足が少なかった。けれど客足とは関係なくやらなければならないことは山のようにある。催事の入れ替えや商品の品出しなど、大変な時だからこそ日常を忘れて楽しんでもらえるように工夫するのも、真優たち店員の仕事なのだ。 チーフに言われたディスプレイの変更もあった為、いつもよりも運動量は多かったくらいだ。 (これでやっと明日は休みったい…!) バンザイしたい気持ちを、胸の前で握った右手に込めた。 今月と来月は同じ売り場のスタッフで順番に有休消化をすることになっていて、今週は二個上の先輩が五連休を取り、真優はその穴を埋めるために七連勤だった。 サービス業あるあるなのかは一年目の自分には分からないが、普段はなかなか連休が取れない職種ゆえ、この時とばかり皆がまとまった連休を取るのだ。 待ちに待った真優の連休はまだ先。来月末が恐ろしく遠いな、と思いながら、カバンの中からスマホを取りした。
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