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霊界電車
2021年8月4日に最初のワープゾーン体験をした次の週に私は、それこそきさらぎ駅のような奇妙な世界に迷い込むことになります。
その夜は、軽く飲んで帰りました。
この後8月中旬には静岡県も蔓延防止になりますから飲みに行ける最後の週でした。
4人以下、換気やシート等の対策がされている店、飲食時以外はマスク着用😷とルールはきっちり守って飲んだのは言うまでもありません。
他のメンバーは静岡市住みなので私はひとりで駅に行きました。
ホームに上がる階段で足元に違和感を感じて転びそうになって階段に片膝を着きました。
酔っていたワケではありません。足元がぐにゅっとなったというか滑ったというか、油のようなものが撒かれていたような感じでした。
咄嗟のことでも片膝を着いただけで転ばないように反応もできたから酔ってはいないはずです。
とりあえず、膝を着いてスーツが破れはしなかったか何度も確認をしました。幸いスーツは全くの無事でした。
安心したら腹が立ってきました。誰だ、こんな所に油なんて撒きやがったのは😡
しかし、電車の時間が迫っていたので、足元に撒かれていたものも確認しないで急いで電車に向かいました。
思えば、これは油なんかじゃなくて血液か何かで、この時に既に闇の世界へ足を踏み入れていたのかも知れません。
コロナ禍でも飲みに行った人や残業の人もいて電車はけっこう混んでいましたが、座ることができました。
この作品もそうですが、電車では小説を書いて過ごすことが多いので、その日も小説を書いて帰りました。
電車に乗ってるのは1時間ぐらいですが、小説を書いているとすぐに過ぎてしまいます。
焼津、藤枝で大勢の人が降りるので、そこから先は空いていて快適です。
逆に朝静岡に向かう時には藤枝で大勢乗ってくるから一気に満員電車に変わります。
島田を過ぎて菊川に着いた時に異変は起きました。普通だと乗り降りが終わるとすぐに発車するのになかなか電車が動きません。動かないのに何のアナウンスもありません。
どうしたんだろうと思っていると急に寒くなりました。8月、真夏で暑いはずなのにかなりの寒さです。
周りを見回すと乗客たちは青白い顔をしていて生気が感じられません。
怖くなって外を見ると異様に暗いんです。夜だから暗いのは当たり前ですが、暗黒の闇としか言いようがないような異様な暗さです。
また、外の景色は菊川駅ではありません。確かに菊川に着いたはずなのに、他の駅と勘違いしたのかとも思いましたが、静岡から浜松のどの駅でもありません。見たこともないような景色でした。
一体どこに迷い込んでしまったのか、そこは一体どこなのか、私は確かめてみたい衝動にかられました。
電車を降りて、せめて駅名だけでも確認したい。
立ち上がりかけたのですが、今度は嫌な予感が私の頭をよぎりました。降りたら取り返しのつかないことになる。もう戻っては来れないかも知れない。
もしかしたら、そこはきさらぎ駅のような闇の世界なのかも知れない。間違って降りてしまったら戻っては来れずに永遠に彷徨うことになるかも知れない。
SNSとかで状況をアップしてみようとも思ったのですが、頭がおかしくなったとか、きさらぎ駅の真似をして悪ふざけをしていると思われるのが関の山だと思ってやめました。
仮に信じてくれた人がいたとしても、こんなどこだかも分からないような所に助けに来れるわけもないでしょう。
じっと席に座ってどうしようと考えていました。しかし、寒い、どうしようもなく寒い。このままでは凍えてしまう方が先かも知れない。
考えていると突然車内の蛍光灯が灯きました。この時に初めて気がついたのですが、異様に暗かったのは車内の蛍光灯が消えていたせいもあったのです。
乗客たちには生気が戻っていました。寒さもなくなってまた蒸し暑くなりました。
ホッとすると突然扉が閉まって電車は動き出しました。
「次は〜、浜松〜、終点浜松に到着です」とアナウンスが流れて、電車は何事もなかったように終点の浜松に到着しました。
信じられません。電車は確かに菊川駅で停まり、謎の世界に迷い込んだはずなのに、動いた途端に次が終点浜松とは。
しかも、けっこう長い時間停まっていたはずなのに全然遅れていません。謎の世界に迷い込んでいた間もこちらの世界では何事もなかったように電車は運行していたということです。
戻って来れたのは電車の車内が闇の世界と繋がっていたからでしょうか?やはりあの時に降りていたら取り返しのつかないことになったのかも知れません。
電車の中から慎重に外を見ました。そこは間違いなくわりと見慣れている浜松駅の景色です。
浜松駅まで来てしまったということは乗り過ごしてしまったということだから、本当に浜松駅で間違いないか注意深く確認して静岡行きの電車に乗りました。
まだ蔓延防止前ではありますがコロナ禍なのに残業や飲み会帰りの人で電車はすぐに満員電車になりました。
コロナ禍なのに全然いつもと変わらないなと思っていると、電車は目的駅に着きました。
そこが本当に目的駅で間違いないのか注意深く確認して私は電車を降りました。
改札を抜けると異変は再び起こりました。そこは目的駅には間違いないのですが、また異様に暗い暗黒の世界になりました。やはり夏で今まで暑かったのに突然かなり寒くなりました。
改札を抜けて来る人たちはみんな青白い顔をしていて生気がありません。
駅を出てみると、そこは自分が住んでいる街に間違いありませんが、異様に暗いです。
高校生とかもいて、車で迎えに来る親の姿もありましたが、車は異様に暗いし、人は青白い顔をしていて生気がありません。
駅から家までの途中にあるお店に寄るのが日課になっていましたから、とりあえずそこを目指すことにしました。
暗黒の中に見える景色はいつもの建物とかに間違いないことを確認して寒くて暗い街をゆっくりと歩きました。
もし闇に飲まれてしまったら取り返しのつかないことになると思うと恐ろしくてたまりません。
暗闇の中、眩しいぐらいに灯りが灯っているお店が見えてきました。間違いなくいつも寄るお店です。
お店に入ると冷房が効いていましたが、それが心地よいぐらいに蒸し暑くなっていました。
お店の中にいる人たちにはちゃんと生気があります。
買い物を済ませて恐る恐るお店を出てみると、そこは間違いなくいつもの街でした。車や歩行者にはちゃんと生気があります。
よかった、戻ってこれたんだと安心しつつ、いつもより慎重に街を歩きました。
無事に家に帰ると犬が嬉しそうに出迎えてくれたのでやっと本当に安心できました。
今夜の体験は一体何だったのか?一体どんな世界に行ってしまったのか?もしかしたら、もう戻っては来れなかったかも知れない。
あれこれ考えると恐ろしくなるばかりなので、とりあえずはお酒を飲んで寝ました。
謎の闇の世界を経験してから2〜3日後にまた奇妙で恐ろしいことが起こりました。
その日は残業も飲み会もなく早く帰ったのですが・・。
静岡からの帰りの電車は超満員で、焼津で少々人が降り、藤枝で一気に人が降ります。
コロナ禍、蔓延防止直前ということもあってか、混んではいるけど、焼津では座ることができました。
藤枝に着いて一気に人が降ります。ずっと座っていた若い男が急に立ち上がって慌てて降りようとしました。きっと目的の駅に着いたのをぼ〜っとしていて気づかずに乗り過ごすところだったのだろうと思っていると、大慌てのあまり男は転んで勢いよく手摺りに額を打ちつけました。
付近にいた乗客からは悲鳴が上がり、慌てて席を移動しました。勢いよく額を打ちつけたものだから、男は額が割れて、遠目からでも分かるぐらいに流血してしまいました。
男は何事もなかったように立ち上がると奇妙な笑いをして、陽気に鼻歌を歌って、小躍りしながら楽しそうにホームを駆けていきました。
額を打って、かなりの流血だというのに陽気に歌ったり小躍りとは信じられません。
まるで何かに憑りつかれたような奇行でした。
男が慌てて立ち上がり額を打って電車を降りるのは時間にすればほんの数秒。電車の運行には何の支障もありません。乗客たちの悲鳴をよそに電車は何事もないように藤枝駅を出発しました。
あの男は何か悪霊とか魔物に憑りつかれていたのだろうかと思って私ははっとしました。
この電車は・・。
浜松止まりで、また静岡まで折り返してくる電車です。浜松から静岡に戻ってくると、ちょうど先日の飲み会帰りに乗った時間の電車になります。
あの、闇の世界に迷い込んでしまった電車と・・。
この電車が悪霊とか魔物に憑りつかれて霊界とか闇の世界と繋がっているのではないか。
人身事故により電車が遅れるというのは、電車通勤をしているとわりとよくあることです。つまり、自殺なのか本当に事故なのかは分かりませんが、かなりたくさんの人が電車にひかれて命を落としているということです。
そのような事故に遭って人をひいてしまった電車は清掃や整備はもちろん、お祓いもちゃんとされているとは思いますが、それでも、死んでいった人の魂や怨念が憑りついていて、霊界等の未知の世界と繋がっているのではないかと思いました。
さっきの流血したのに楽しそうにしていた男は一体小躍りしながらどこへ駆けて行ったのでしょうか?
もしかすると、霊界等の未知の世界へ駆けて行ったのかも知れません。
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